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解深密経

一切法とは略して二種有り、一には有為、二には無為なり、

この中有為は有為に非ず、無為に非ず、

無為も亦無為に非ず、有為に非ず。

 

( 有為:うい 無為:むい 亦:また 非ず:あらず )                   

 



善男子、有為と言ふは、乃ち是れ本師假施設の句なり。若し

是れ本師假施設の句なれば、即ち是れ遍計して執る所の言辞の所説なり。若し是れ遍計し

て集むる所の言辞の所説なれば、即ち是れ究竟じて種種遍計言辞の所説は、成實ならざる

が故に、是れ有為に非ず。善男子、無為と言ふは亦言辞に堕す、設ひ有為無為を離るるも、

少しく所説有れば其相も亦爾り。然れども事無くして、所説有るに非ず。何等をか事と為

す、謂く、諸の聖者、聖智聖見を以て名言を離るるが故に、現に等正覚し、即ち是の如

き離言の法性に於いて、他をして現に等覚せしめんと欲するが為の故に、名想を假立して之

を有為と謂ふ。善男子、無為と言ふは、亦是れ本師假施設の句なり、若し是れ本師假施設の

句なれば、即ち是れ遍計して執る所の言辞の所説なり。若し是れ遍計して執る所の言辞の

所説なれば、即ち是れ究竟じて種種遍計の言辞の所説は、成實ならざるが故に是れ無為に

非ず。善男子、有為と言ふは、亦言辞に堕す、設ひ有為無為を離るるも少も所説有れば其相

亦爾り。然れども事無くして所説有るに非ず。何等をか事と為す、謂く、諸の聖者、聖

智聖見を以て、名言を離るるが故に現に等正覚し、即ち是の如き離言の法性に於いて、他を

して現に等覚せしめんと欲するが為の故に、名想を假立して之を無為と謂ふ。 

   


( 乃ち:すなわち 本師假施設:ほんしけせせつ 即ち:すなわち 遍計:へんげ 執る:とる 言辞:ごんじ 

究竟:くきょう 設ひ:たとひ 爾り:しかり 然れども:しかれども 謂く:いはく 法性:ほっしょう 假立:けりふ 

本師假施設:ほんしけせせつ 成實:じょうじつ 少も:わずかも 爾り:しかり 為す:なす 之:これ )

 

 



仏の離言無二の義は、甚深にして愚の所行に非ず

愚夫此れに於いて癡に惑わされ、二に楽著して言に依りて戯論す

彼或いは不定或いは邪定、流転して極めて長く生死に苦しむ

復是の如き正智の論に違せば、当に牛羊等の類の中に生ずべし   

           

( 離言:りごん 甚深:じんじん 愚:ぐ 癡:痴ち 楽著:ぎょうじゃく 依り:より 戯論:けろん 復:また )

 



勝義は一切の尋思の境相を超過す     


我説く勝義は無相の所行なり、尋思は但有相の境界にのみ行ず。               


我説く勝義は言説すべからず、尋思は但言説の境界にのみ行ず。


我説く勝義は諸の表示を絶す、尋思は但表示の境界にのみ行ず。


我説く勝義は諸の諍論を絶す、尋思は但諍論の境界にのみ行ず。    

           

( 尋思:じんし 但:ただ 言説:ごんせつ  諍論:じょうろん )

 


諸の尋思する者は一切の尋思の所行を超えたる勝義諦の相に於いて

尋思すること能はず、比度すること能はず、信解すること能はずと。

( 諸:もろもろ 尋思:じんし 於いて:おいて 能はず:あたはず 比度:ひたく 信解:しんげ )

 


内證と無相の所行と、不可言説と表示を絶すると

諸の諍論を息するとの勝義諦は、一切尋思の相を超過す                    

 


阿陀那識は甚だ深細なり、我凡と愚とに於いては開演せず

一切の種子は瀑流の如し。恐らくは彼分別し執して我と為んことを              

( 阿陀那識:あだなしき 甚だ:はなはだ 為ん:せん )

 


若し無相の法を了知せざれば、雑染相の法を断ずること能はず

雑染相の法は能はざるが故に、微妙浄相の法を證することを壊す

諸行の衆の過失を観ぜざれば、放逸の過失は衆生を害ひ

懈怠は住法と動法との中、無にし有にして失壊す憐愍すべし                 

 

( 了知:りょうち 雑染相:ぞうぜんそう 能はず:あたはず 微妙浄相:みみょうじょうそう

 壊す:えす 衆:もろもろ 放逸:ほういつ 害ひ:そこなひ 懈怠:けたい 憐愍:れんみん )

 



一切法は皆無自性なり、無生無滅なり、本来寂静の自性涅槃なり

 



法假立の喩伽の中に於いて、若し放逸を行ずれば大義を失す。

此法及び喩伽に依止して、若し正しく修行すれば大覚を得

有所得を見て免離を求め、若し此見を謂ひて得法と為さば

慈氏、彼喩伽を去ること遠きこと、譬へば大地と虚空との如し

利生堅固にして作さず、悟り已りて勤修して有情を利す

智者此を作して劫量を窮め、便ち最上離染の喜を得

若し人欲の為に法を説かば、彼を欲を捨てて還って欲を取ると名づく

愚癡は法の無價寶を得て、反って更に遊行して乞かつす

諍誼雑戯論の着に於いて、應に捨てて上精進を発起すべし

諸天及び世間を度せんが為に、此喩伽に於いて汝当に学すべし               

 

( 喩伽:ゆが 放逸:ほういつ 依止:えし 得:う 譬へば:たとへば 悟り已り:さとりおはり 劫量:こうりょう

 窮め:きはめ 便ち:すなはち 離染:りぜん 還って:かえって 愚癡:ぐち 無價寶:むげほう 乞かつ:きっかつ

 諍誼雑戯論じょうぎざふけろん 應に:まさに 当に:まさに )

慈氏:慈氏菩薩

 



若しは諸の菩薩現法の中に於いて煩悩多きが故に、修すること

無間なるに於いて、堪能すること有ること無く、羸劣ある意楽の故に、下界の勝解の故に、

内の心住に於いて堪能すること有ること無く、菩薩蔵に於いて聞縁して善く修習すること能は

ざるが故に、有らゆる静慮は、出世間の慧を引発すること能はず、彼便ち少分狭劣の福徳資

糧を撮受して、未来世の煩悩軽微ならんが為に、心に正願を生ず、是の如きを願波羅蜜

多と名づく。此願に由るが故に、煩悩微薄にして能く精進を修す。是故に我願波羅蜜多は、

精進波羅蜜多の與に而も助伴と為ると説く。                             

 

( 堪能:かんのう 羸劣:るいれつ 聞縁:もんえん 能はざる:あたはざる 與に:ために )

 



増益損減の二辺を遠離し、中道を行ずるを、是を名づけて慧と為す。               

 



展転して相依りて生起し、修習すること間断無き                            

( 展転:てんでん 相依りて:あいよりて 生起:しょうき 間断:けんだん )

 



波羅蜜多は、是れ畢竟変壊の法に非ざるが故なり。                         

( 畢竟:ひっきょう 変壊:へんえ 非ざる:あらざる )



此に於いて正しく修行する時、

未来世に於いて、能く広大無尽の可愛の諸の果異熟を得るなり。                  

 



是の如き一切の波羅蜜多は、大悲を因と為し、微妙なる可愛の諸の果異熟と、

一切有情を饒益するとを果と為し、無上広大の菩提を円満するを大義利と為す。         

( 饒益:にょうやく )

 



観自在菩薩、「 世尊、若し諸の菩薩は、一切無尽の財宝を具足し、

大悲を成就せば、何に縁りてか世間に現に衆生の貧窮の得べきかは有る。」

仏、「 善男子、是れ諸の衆生、自業の過失のみ、若し爾らずんば、菩薩は常

に他を饒益する心を懐き、又常に無尽の財宝を具足せるに、若し諸の衆生に、自の悪業

の能く障礙を為すこと無くんば、云何が世間の貧窮の得べき有らんや。譬へば、餓鬼の大

熱渇の為に、其身を逼迫せられて、大海の水悉く皆涸竭せりと見るが如きは、大海の過

に非ず、是れ餓鬼の自業の過なるのみ。是の如く菩薩の施す所の財寶は、猶し大海の如く、

過失有ること無し、是れ諸の衆生の自業の過なるのみ。猶し餓鬼の自の悪業力もて、果

有ること無からしむるが如し。 」

 

( 観自在菩薩:観世音菩薩 縁りて:よりて 云何:いかん 貧窮:びんぐう 涸竭:こかつ 過:とが 猶:なお ) 

 



般若波羅蜜多を以て、能く諸法の無自性性を取る。                     

 



法身の相は生起有ること無し                                 

( 生起:しょうき )

 



如来は、心意識生起の所顕に非ず                           

( 所顕:しょけん )

 



若し衆生有りて、此道と行とに於いて違背し、軽毀し、

又我所に於いて、損悩の心及び瞋恚の心を起こさば、

命終し已りて後、一切處に於いて所得の身財下劣ならざる無し。             



 

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